農家の嫁が働きながらこっそりつぶやく独り言

~仕事のこと、農作業のこと、家のこと、子どものこと、 何気ない出来事 ~

【読んだ本の感想なんかを、少しだけ】

先日の眠れない夜(実際は、明かりを消して目を閉じたらすぐに夢の世界だったのだけれど)、小川洋子さんの『カラーひよことコーヒー豆』を読みました。
体調がすぐれなかったので、軽く読める本を・・・ということで、選んだ本。たまたま図書館から借りていた本でしたが、ちょうどこの日にはぴったりでした。そして、図書館でこの本を選んだ理由。それは、いわゆる「ジャケ買い」ならぬ、「ジャケ借り」(笑)。かわいい装丁に惹かれてという、借りた理由もまた、軽いものでした。

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雑誌に2年間連載したエッセイに書き下ろしを加えた単行本。
日常の小さなこと、美しいものを見つめるまなざし、仕事のこと、そういうものが丁寧につづられていて、著者の優しい人柄がよくわかるエッセイ集でした。
千年前の清少納言のこと、出会った出来事から思う作者の感想、戦争のこと、海外のことなど、様々なことが書かれているのだけれど、今の私がとくに印象に残ったのが、『世界の周縁に身を置く人』というエッセイ。

とある雑誌で、「『おそ松くん』の中で、「チビ太」や「イヤミ」に魅力を感じ、周縁の人間、"はじっこ”にいる人間の方に心をそそられる」というインタビュー記事にひどく共感し、『アンネの日記』では、アンネの姉「マルゴー」に心を寄せる著者。そして、

 

中心から少し視線をずらした時、世界の見方が変わることがある。声高に叫ぶ人の声だけでなく、じっと黙っている人の声に耳を傾けていると、思いがけず深遠な心理に触れることができる。

 


そうまとめられている。
実は、私も今、「じっと黙っている人」のこと、「周縁に身を置く人」のことを想っている。
じっと黙っているからと言って、まったく考えていないわけではなく、声高に叫んでいる人よりもむしろ、ずっとずっと考えているのかもしれないと感じているから。



ここ1年で、私の考え方やモノの見方、影響を受けていることは、ずいぶん変わってきていると思っている。職場での今の立場になってからの経験値と、コロナによる社会の変化なんかも関係しているんだと思う。


去年の春、初めての緊急事態宣言で世界中の当たり前がひっくり返った時、私は閉館しているセンターへ毎日出勤し、自分ができることを模索していました。初めてのオンラインによる講座を開催してみたり、人と人のつながりについてずいぶんと考え、気づいたこともたくさんあったかな、そういう時期を過ごしました。
特に、「やりたくてもできない」という経験をしたことで、「行きたくても行けない」「参加したくてもできない」という、「希望がかなわない」ことが当たり前の状況にある人、コロナの前から「そういう状況にある人」のことを考える視点、というものを得たことが一番大きいかなと思っています。
仕事で、何かに取り組んだり、何かを企画したりするときに、自分で情報を得て、自分で申し込んで、自分で参加できる人のことよりも、どうしたら隅々にまでに届けることができるのか、そういうことを考えながら取り組むようになりました。
結果、今までは、私が用意したものに来てもらう、招き入れるやり方だったけれど、招かれない人、届かない人、そういった人のもとへ、届けたい、どうしたら届けられるのか、そして、どうやったら周縁にいる人々の声が聞こえるのか、周縁の人々が求めていることはどんなことなのか、そんなことを考えるようになったと思っています。


著者が最後にまとめているように、私も周縁にいる人々の声こそが、私のような行政側の人間が拾うべき声であり、その声の中にこそ、やらなければならないことがあるような気がしています。
そして、いろんなことをあらゆる場面で主張していくことももちろん大切で、声高に叫んでくれる人が必要だけれど、主張しない人が必ずしも無責任ではないということも考えるようになりました。様々な理由で、主張したくても主張できない状況にあること、それは、無関心だとか、あきらめだとか、無気力だとか、そういう無責任な消極的な「主張しない」のではなく、「主張できない」でいる、あるいは、積極的に、意識して「主張しない」そういう選択をしている、そういう場合もありうるのだなということを、なんとなく考えるようになりました。


主人公ではなくて、脇役ばかりに注目するなんて、ちょっとあまのじゃくのようだけれど、そして、自分が世界の中心で、だれかれ構わず自分の枠内に引き込むことが多かったけれど、できれば、枠を取っ払って、世界の隅々まで赴いて、見聞を広げて深めてみたい・・・素直に、純粋にそう思えるエッセイでした。

かる~い本だけれど、すごくふか~く想いを綴ってみましたよ。