農家の嫁が働きながらこっそりつぶやく独り言

~仕事のこと、農作業のこと、家のこと、子どものこと、 何気ない出来事 ~

【い草農家訪問記】

い草刈り体験に熊本県八代市に行ってきた。

この体験、在籍している裏千家淡交会筑豊支部青年部が企画したイベント。
自分たちが普段当たり前に使っている畳のことを知ろうという企画。
昨年青年部を卒業した畳屋を営むメンバーがコーディネーターとして企画を進めてくれた。彼の畳愛のすごさは、ホームページやインスタからあふれ出ている。
今回お邪魔したい草農家さんの草野さんも、登場しているので、よかったらどうぞ。

【福岡】佐野畳屋|地球を株主とする畳づくり

 

い草は、苗作りから収穫まで、なんと1年半をかけてお世話をする。
夏に苗作りをし、その成長した苗を植え付けに適した太さに調整し専用のポッドに植え付けていく。
冬になると、水を張った田んぼにい草を植えて、春にい草の成長のばらつきを抑えるために上部を刈り取る。
先端を刈った後、い草が倒れないよう田んぼ一面、い草の上に網をかける。
成長と共に網の高さを調整して行き、6月に刈り取る。
刈ったい草は、暑さで痛まないよう流水で冷やし、泥染めをして乾燥させて保管する。

ここまできて、やっと加工現場の畳屋さんへと渡される。
い草農家さんの自宅横には、機械化された作業場があって、そこを見学しながら説明を受けた。

刈り取りを待つい草たち

い草の成長に合わせて、網の高さをあげていく

 

い草の成長にとって水は欠かせないものだそう。
一日に3センチも伸びるい草。
一反あたり一日一トンもの水が必要なんだとか。
水をたたえた田んぼは歩きにくい。
い草を刈る時は、田んぼの中に立ててある杭を抜きながら、網を外しながらの作業となる。

い草を刈る機械(い草ハーベスタ

2条刈り。
刈ったい草は長さで選別される。
短いものや悪いものは、カッターで裁断されて水田に落ちる。
150センチ~160センチに成長したい草が「1番い草」といって、最も良いい草なのだそう。

機械の後ろ側

定量になると自動的に紐で束ねられる。

田んぼの向こうまで行くと荷台がいっぱいになる

荷台はリフト式になっている。

荷台を入れ替えて、また刈っていく

刈ったい草をコンテナに並べる作業

い草を荷台からコンテナに移す際、ゴザの上で切り口を揃えてきれいに並べていく。
この時の並べ方が今後の仕上がりに影響が出てくるとのことで、丁寧に優しく、でも手際よく作業されている。

コンテナがいっぱいになったら、フォークリフトで自宅横の倉庫兼作業場まで運び、水をかけて冷却する。

シャワーで冷やされるい草たち

冷却され次の工程を待つい草たち

シャワーを浴びた後のい草のつや、輝きは、思わず感嘆の声が漏れるほどだった。
本当に美しい。田んぼの中だけではなく、刈った後も水をたくさん使うい草づくり。
いかに水が大切なのかがわかる。

次の工程では、せっかくのシャワーで美しくなったい草を泥水につける。
この作業は、「泥染め」といって、美しい緑色が変色しないようにしたり、香りを引き出したりするために行うとても大事な作業。

2種類の染土を使用する

粒子の細かいサラサラの染土2種類を配合して水に溶かし泥水をつくる。

倉庫兼作業場に作られた染場

写真を撮り忘れたけれど、シャワーを浴びたい草が入ったコンテナをフォークリフトで染場まで運び、天井から吊るされた滑車にかけて降ろしていく。

泥水に付けた後引き上げられたコンテナは、そのまま天井のレールを通ってすぐ横の乾燥室まで運ばれていく。

乾燥室の中の様子

下から70℃で蒸し上げて、乾燥させる。
大きな換気扇で蒸気を換気しながら乾燥させるので、すごく大きな音が響いている。
一晩中かけて乾燥させた後、黒い袋に入れて倉庫2階で保管する。

出来上がったい草の束

黒い袋から出してもらったい草には、乾燥した泥が付いている。
触ると手に泥が付くけれど、知っているあのい草の香りがほんのりと香ってくる。
作業場には細かい泥土がたくさん落ちていたし、乾燥室では乾燥した泥土が舞っていて、乾燥しつや、黒い袋に入れる作業の時は必ず、防塵マスクをして作業をするのだそう。
い草刈りが始まると、い草を刈りながら冷却し、乾燥もさせていくので、長時間で重労働の毎日が続く。
早朝3時頃から乾燥が終わったい草を袋詰めし、朝食を食べてい草を刈る。
刈り取ったい草から冷却し、冷却しながら染め、乾燥室へ。
そうして1日でコンテナ7個分のい草を刈り、夜8時ごろに乾燥を始める。
毎日がこの繰り返し。
そして、い草を刈り終わった田んぼから、トラクターで耕して均しそのままお米作りをするのだそう。
すべて同時進行で、家族4人で分担しながら進めていく。

今は機械化されたとはいえ、本当に重労働。
そして、昔はこれらがすべて手作業だったのだから驚きだ。
手刈りで刈ったい草の先端をつかみ上下に一振りすることで飛び出してくる短いい草を足で踏んで選り分ける作業も体験させてもらった。

手刈りを体験させてもらう

束になったい草と共に

お米作りよりもずっとずっと大変だと感じた。
それでも、見学させてもらった農家さんは、

たまたま生まれ育った場所がい草を作る家だったから、自分のさだめだと思って続けている。
以前は晴れたら晴れたで不満だったし、天気が悪ければ悪かったで不満だった。
でも今は、お天道様に感謝、こうしてい草のことを知ろうと見学に来てくださる方がいることに感謝、ご縁が繋がることに感謝の気持ちしかない。
大変だけれど、今は、い草づくりを続けられて感謝の気持ちしかない。

というようなことを述べられていて、その言葉が曇りなく心に響いてきて、泣きそうになった。

忙しい中私たちを迎え入れてくださり、丁寧に説明してくださったい草農家の草野さん。
いろんな質問にもにこやかにテキパキと答えてくださった。
浅黒く日焼けした草野さんの顔、泥で汚れた武骨な手、どちらもとても美しかった。

丁寧に説明してくださって感謝しています

美しい心の持ち主が、美しいい草を作り出している。
その現場を知ることができて、とても嬉しかった。