農家の嫁が働きながらこっそりつぶやく独り言

~仕事のこと、農作業のこと、家のこと、子どものこと、 何気ない出来事 ~

【小さな子の気持ちを想って、勝手に泣いた話】

交流センターが行っている事業の中で、生涯学習課事業に「放課後子どもマナビ塾」というものがあります。その名の通り、木曜日の放課後、そして土曜日の午前中に子どもの居場所づくりや世代間交流を目的に、運動教室や卓球、ダンス教室といった体を動かすプログラムのほかに、裁縫教室やものづくり、囲碁将棋、ボードゲーム教室など、様々な講座を準備して行っています。

 

放課後子どもマナビ塾の担当はほかの職員なのだけれど、なにせ地区内に小学校が4校あるので、私もサポートで、現場に顔を出して子どもたちとたわむれたり、地域のサポーターさんとセンターとの橋渡し役をさせてもらっています。

 

昨日は木曜日の講座が2学期最後の教室でした。
マナビ塾が終わった子どもたちはそれぞれ、お迎えの子、自分で帰る子、児童クラブに向かう子と分かれるのですが、お迎えの子は児童昇降口まで保護者に迎えに来ていただいています。
昨日は雨降りで、普段自分で帰ることになっている3年生の女の子が、今日は父親が迎えに来ることになっているからと、昇降口で待っていたのだけれど、なかなか保護者の姿がみえません。それで、申込時に届けのあった父親の連絡先に電話を入れることにしました。


「交流センターの子どもマナビ塾担当のものですが、〇〇ちゃんのお父様ですか?」

「そうやけど、何?」

「今日は、お父様がお迎えに来られるということで、〇〇ちゃんが、昇降口で待っているのですが、お父様は今、どちらにいらっしゃいますか?」

「体育館の裏に車停めて待っとるんやけど、なんや昇降口っち?」

「昇降口って・・・下駄箱です。お迎えの場合は保護者の方に下駄箱まできていただいているのですが・・・」

「なんや、それ、意味わからんわ。子どもこっちに歩かせればいいやないか」

 

(これはめんどくさいパターンのやつだ。まあ、この子は普段は『自分で帰る』になっている子だし、今日のお迎えは特別なので、堅苦しいことは抜きだな)

 

「わかりました。では、そちらに向かわせますので、よろしくお願いします。失礼しました」

「あったり前やないか、なんわけ分からんこと言いよるとや」

 


最後は、こちらもイラっときたので、残りは聞かずに携帯を耳から外す(笑)。

その子に、父親が体育館の裏のところで待ってるそうだからと伝え、一緒に行くことに。
冷たい雨が降る中、その子は傘を持たず、私の傘をなるだけその子が濡れないようにかかげ、そしておしゃべりしながら体育館の裏の角を目指します。

そうしたら、なんと、体育館の裏の門扉が閉まって鍵がかけられている。だってもう、17時近い時間だもんね。
確かに目の前に車が停まっているけれど、門が閉まっているので外に出られない。仕方なく、来た道を戻り、児童クラブのある駐車場から道路に出て、ぐるっとグラウンドをまわって車まで行かなければならなくなりました。

「車の中にもう一本傘があるから、その傘かしてあげるね」
そういって、児童クラブの駐車場に停めていた私の車に、持っていた荷物を放り入れ、代わりにトランクからビニール傘を取り出し、それをさして一緒に父親の待つ車に向かって歩きました。なるだけ楽しい話題を投げかけながら・・・。


車に着くや、運転席のドアが開き、父親開口一番、
「お前はバカか!!。体育館の裏っち言っとったやろうが!」

子どもがもじもじしていたので、
「すみません、体育館の裏の門のカギがかかっていたので、ぐるっと回ってきました。お待たせしてすみません」

私の言葉には一切反応せず、私の方も見ない。もしかしたら、私のこと見えない?私の声聞こえない?もしかして、私、透明人間になれた⁈っていうくらいのレベル(笑)。

「結局濡れとるやないか!バカかお前は!はよ、乗らんか」

その子が助手席に乗り込む間、なるだけ濡れないように傘をさしてあげて、ドアを閉める時に、父親に、

「気を付けてお帰りください」

その子には、

「じゃあ、またね、さよなら」

ってできるだけにっこり穏やかに言ってドアを閉めました。



自分の車に戻りながら、あの子のことを思うと涙が溢れてきました。
冷たい雨の中やっと車にたどり着いたのに、
「おかえり」も「濡れんかったね?」も「寒かったね」も言ってもらえない。
それどころか、開口一番、「お前はバカか!」という罵声を浴びせられ、あの子が毎日家でどんなふうに、どんな思いで過ごしているのだろうかと思うと、胸が締め付けられるような、切ない気持ちになったのです。

雨に濡れないように傘を貸したことも、一緒に車までついていったことも、別に頼まれたことでもないし、そこまでしなくてもよかったことなんだけれど、小さな影が車に向かってくる様子を車内から見て、父親はどう感じていたのだろう。迎えに来てやっているのに、言われたとおりにできない子どもをイライラしながら待っていたのだろうか。
誰かに優しさを分けてもらった時は、「ありがとう」っていうんだよっていう見本を示すこともできず、自分の都合で子どもを振り回し、思い通りにならなければ態度に現し、力で押さえつけようとする、そんな親の姿を、あの子はどう見ているのだろう。

あの子に絶対的な安心感や自己肯定感、自尊心はあるのだろうか。
暗闇の中で、膝を抱えて小さく怯えているのではないだろうか。
それとも、私が思うよりも逞しく、のびのびと過ごしているのだろうか。



暗闇と強く降りしきる雨と冬の寒さが、私の気持ちを一層暗く重くさせた帰り道でした。